十字架の罰
■第五章A■
「何があったのかは知らんが、大丈夫なのか?」
ライエルはニコリと微笑んだ。
「心配なんてしていないでしょう。」
「充分心配している。」
「ならばこんなこと、病人にしないでしょう。」
「…。」
光隆は押し黙ってしまうしかなかった。確かにそうだ。
「しかし、それはライエル、お前が悪い。」
「俺がですか…?」
一度うなずいて、また口付ける。ライエルは身体を強張らせたが、今度は軽い口付けだった。しかし、なぜか妙に物足りなく感じるのだ。
「お前の色香は私には媚薬だ。そんな顔をするのが悪い。」
「光隆の日本語はおかしい。第一、俺は男です。」
「それは、承知しているし、前にも聞いた。」
光隆は笑って答えると、首筋に唇を這わせた。身体が震える。しかし、期待が大きい。唇をかみしめて、声を殺すが鼻から抜ける声は抑え切れなかった。
「まだ…、出会って数日だというのに…」
「愛に時間は関係ないと思うが。」
「…ん…。」
びしょぬれの着物を左右に開くと、綺麗な白い肌があらわれた。ゴクリと喉がなる。
「関係、あります。」
「私はこの数日で充分だ。お前が私を愛せないというのなら、その、お前が必要な時間待とう。」
肌が白いせいか、むきだしの乳首が甘い果実のような錯覚に襲われる。
「性に合わないが、お前のためなら毎日愛の言葉を囁こう。」
ライエルはもう、抵抗する気力を失った。それどころか、身体が欲している。
「上手そうな果実だ。私のために、用意してくれたのだろう?」
手で玩ぶと、身体を大きく震わした。
「食べたら、なくなったりしないだろうか?」
「何言って…。」
焦らすように、玩んだ。つまんでみたり、指先で転がしてみたり。そのたびにライエルは小さく声をあげた。
「もったいないだろう。もし、この果実が明日になってなくなっていたら、私は十日は寝込んでしまう。」
「そんな…。なくなったりしません…だからっ…」
段々息が荒くなる。瞳が潤んできた。
「だから…?」
「だから…っ、お願いします。」
光隆は口角を上げた。真っ赤な果実に舌を這わせると、ライエルは背をのけぞらせた。
「あっ…ん、ゃ…」
「こんなに上手いものは食べたことがない。」
「……あぁっ……」
甘噛してやると、ライエルは声を上げながら光隆の着物をしっかり掴んだ。
「こんなになるまで気持ちよかったのか?」
しっかりと主張しているライエルの屹立を、やんわりと手で包み込んだ。
「…ん、そんな……っ」
ほんの少し触れただけなのに、ライエルの屹立からは甘い蜜が零れて流れる。光隆は喉を鳴らした。逸る気持ちを抑えるのが、こんなに大変だとはおもわなかった。
心臓の上にしっかりと実をつけた、真っ赤な果実はまだ、光隆を誘っている。光隆の方もまだ足りなかった。
「栄養分は、お前のココロか?ライエル。」
擦れた声で、光隆は言った。指先で玩んだ後、またすぐに口に含んだ。
「…ぁあっ……」
「お前が私をもっと愛したら、もっと甘い果実を実らせるのだろうか。」
「光…、隆ぁっ……。」
もう片方も指先で転がしてやると、ライエルは大きく背をのけぞらせた。
「色っぽいな…。」
着物を乱暴に剥ぎ取ると、屹立ははちきれそうなほどだった。光隆は口角を上げた。
「まだ、何もしていないだろう?」
「…この期に及んで、意地悪ですか…?」
「そういう、可愛いことをいうと、私に喰われるぞ。」
「もう、食べられて…ぁあっ…」
ライエルの屹立を口に含むと、また声を上げた。足を閉じようとするが、光隆にしっかり足を抑えられてどうしようもなかった。焦らすように吸い上げる。
ライエルはたまらなくなって、腰を振った。
「…っ、ゃ…ん、ぁ…っ」
屹立から口を離すと、ライエルは口惜しそうに、光隆を見た。
「もっと、気持ちよくしてやる。もっと淫らに咲いたお前を見せてくれ。」
光隆はライエルの足を持ち上げると、大きく開いた。
「光隆…?」
「もう、私も限界に近いんだ。」
「みつ…ん、ぁあっ……」
光隆は後ろの秘孔に唇を当てると、ライエルは身体をよじった。
「…ゃ…光隆。やめっ…。」
「正直ではないお前も愛している。」
強く閉ざした窄まりを、丹念に愛撫するが、初めての身体はなかなか言うことを聞いてはくれない。ライエル自身は限界を露ににしているのにもかかわらず。
指を一本どうにか飲み込む。少しでも動かすと、「嫌だ」と言わんばかりに指を押し出した。
ライエルは初めて味わう苦しさに顔をしかめているだけで、光隆はそれがまるで愛の行為ではないような気になったのだ。
指を引き抜くと、小さくため息をついた。風に乗って消えてしまうほど小さかったが、ライエルにははっきりと聞こえた。
「ここはお前の心のようだ。」
指で秘孔をなぞると、背に電気が走る。ライエルは困ったように光隆を見ると、光隆は悲しそうに笑った。
「こんなに誘っているのに、心は開いてはくれない。強情にお前の心を開かせようとすればするほど、心は閉ざしていく。」
ライエルは、光隆の笑顔にどうしようもなくなった。
「……、光隆。入れて…。もう、入れてください。」
「それは駄目だ。お前が傷つく姿は見たくはない。」
「俺は人間ではありません。貴方が与えた傷なら、痛くもありませんし、すぐに治ります。だから…。」
ライエルの哀願にもう、理性は吹っ飛んでいたのかもしれない。胸が締め付けられる想いもあったにはあったが、その一言は光隆に大きな影響を与えた。
「大切にすると決めたのだ。」
なのに、ライエルはことごとく光隆の理性を奪う。その瞳で、その声で、その身体で。
「後悔しても私は知らぬ。」
優しい口付けを送ると、光隆は自身の剛直をあてがった。
ためらう光隆にライエルは微笑む。
光隆は、それが愛の行為となるように、深い深い口付けをした。神経が蕩けそうな程深い口付けに、ライエルは酔いしれた。
光隆のものが入ってくるたびにライエルは眉を寄せたが、甘い口付けがそれを緩和させる薬となる。
時折、苦痛と甘さの混じった声がライエルの唇から洩れ、光隆がそれを飲み込んだ。
「みつ……か、苦しぃ……。」
「全部、入ったぞ。」
ライエルの顔に笑顔が見えた時、妙にほっとしてしまった。これは愛の行為と言えるのだろうか。
「よく、締まって苦しいな…。」
光隆の声はかすれていた。馴染ませるように、光隆はゆっくり腰を揺らした。
「あぁっっ…。」
その声にはもう、苦痛は感じられなかった。快感と言えようその声に、光隆は少しばかり満足した。
「もぅ…光隆、も…、」
ゆっくり引き抜くと、ライエルは大きく息を吐いた。その瞬間、光隆はまた突き上げた。
「あぁっ−…。」
限界を迎えたライエルの自身をしっかり握って、光隆は独りでいくことを許さなかった。
「一緒にイコウ。」
光隆は深く深く突き上げた。それが間違いかを確かめる理性はとうになくなってしまっていたのだ。ただただ二人は快感におぼれていった。
第五章 完
第六章
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